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zoom RSS 山田和夫描く「特攻映画」D

<<   作成日時 : 2011/06/06 05:08   >>

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「その瞬間、彼らはまだ生きていた」ー特攻を描いた日本映画の歩みー映画評論家・山田和夫

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(五) 「雲流るる果てに」と「人間魚雷回天」 
 
 戦後日本映画は、62年たった今日まで反戦平和をたゆむことなく訴え続けてきた。そのなかでとくに記憶したいのは、特攻の悲劇と向い合った作品群であった。前期「日本の悲劇」は公開こそおくらされたけれど、特攻の本質に鋭く迫り、天皇の戦争責任にまで目を向けた最初の作品だった。

 その後、東大協同組合出版部は全国の戦没学生の手記をあつめて「きけわだつみのこえ」を編み、それが映画『きけわだつみの声』(1950年、監督関川秀雄)となり、続いて学徒出陣で戦場にかり出された学徒たいの手記をあつめた『雲流るる果てに』が家城巳代治監督によって映画化(1953年)され、学徒出陣によって海軍予備学生になり、特攻隊員として死んだ若者たちの遺書がドラマに再現だれた。特攻を描いた最初の劇映画作品である。


 「きけわだつみの声」もそうだが、「雲流るる果てに」でも、1943年10月の徴兵猶予打ち切りで学園から出征した学徒兵たちは陸軍士官学校や海軍兵学校を出たエリート職業軍人から、露骨な差別と屈辱を受けた。「雲流るる果てに」の学徒出身兵たちもそのなかで、優先的に特攻隊に送り込まれた。彼らは複雑な矛盾をはらみつつ、死への出発日を待った。

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 出撃予定日が悪天候で日一日と延びる。「特攻待機」と呼ばれるこの耐えがたい日日の隊員の日常が映画の大部分を占める。「何のために死ぬのか?」、もう知識人の訓練を受けていた彼らには、思い悩むことは絶えない。家族への思い、妻や恋人への愛情、故郷の山河への郷愁。家城監督は自分の戦争体験を土台に、出撃を待つ隊員たちの人間像をあたたかく描き分ける。

 ついに空は晴れた。「特攻待機」は終わった。二度と還ることのない出撃に彼らは旅立つ。その機影が遠くに消えていった積乱雲の大空にテロップの字幕が浮かぶ。「きわめて健康」と。隊員の一人が父母にあてた遺書の一節である。そう、彼らは健康な身体と若々しい精神を持った青年たち、その「きわめて健康」の人生を突然断ち切られた無念の思いが、このラストカットに溢れていた。


 そうした学徒出陣の特攻隊員の思いをより鮮明に映し出したのは、松林宗恵監督の「人間魚雷回天」(1955年)だ。

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 人間魚雷回天は、昨2006年に公開された佐々部清監督の「出口のない海」(原作・横山秀夫)で主役となった水中特攻兵器である。大型魚雷を改造して一人乗りの潜航艇にし、搭乗員の操縦で敵艦に体当たりする。零式戦闘機に250キロ爆弾を搭載して体当たりする航空特攻より、この人間魚雷の方が先に採用された特攻兵器だが、私自身が乗せられようとした水上特攻艇「震洋」や、先日他界した作家・城山三郎が訓練を受けていた水中特攻兵器「伏竜」(潜水服を着て海岸線の水中に棒地雷を持って潜伏、上陸用舟艇の船底をおそう)など、いずれも人間性無視の点ではえらぶところはない。人間魚雷の場合、装置が複雑で故障が多く、潜航訓練中に死亡事故が続出した。「人間魚雷回天」にも「出口のない海」にも、訓練中の事故多発の状況が出ている。

 「人間魚雷回天」の場合、シナリオの須崎勝弥も、監督の松林宗恵も海軍予備学生の生き残り、その体験と心情が深く描き込まれていて日本映画の特攻物できわ立った印象を残す力作になっている。それは岡田英次、木村功、宇津井健、高原敏雄、沼田曜一、加藤嘉ら当時第一線の映画演劇俳優陣をそろえ、学徒出陣兵の心のひだに深く入り込もうとしているからである。ここでも予備学生たちは海軍兵学校出のエリート職業軍人に罵声(ばせい)を浴びせられ、いわれなき鉄拳制裁を受ける。

 いよいよ出撃前夜、岡田栄次の朝倉少尉は、外出せず宿舎で読書を続けている。その身の周りを世話する老従兵(加藤嘉)が少尉のベッドで、カントの原書を発見する。「こんな本をお読みになるのですか?」の問いに、小尉は笑って「まだ読み切っていないのでね。でも君にはわかるの?」従兵は「私は学校の教師をしていましたので」。そこから二人さし向かいの、胸を割った静かな会話がはじまる。小尉の最後の夜はそうして明ける。心にしみる描写である。そして出撃の瞬間。


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 潜水艦の上に四本の人間魚雷が乗せられ、四人の搭乗員が甲板に立つ。埠頭(ふとう)に上官や同僚たちが並び、見送る。そのあとのシーンがいい。搭乗員が一人一人、軍刀をかかげて名乗りをあげる。「慶応大学出身・・・・・・中尉」と出身校を大声で名乗って別れを告げる。見送りの仲間から「天っ晴れなしゃばっ気だぞ」の声がかかる。「しゃばっ気」とは軍隊に入ると民間での気分のことを「しゃば」の空気と呼ぶ。これまでエリート職業軍人に受けた差別と屈辱への憤りを爆発させ、自分たちが中断させられた学業への思いを込めた、力一杯の叫びだった。私は学徒出身兵ではなかったが、その気持ちは痛いようにわかった。特攻を描いた日本映画のベストシーンの一つに入る映像である。

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