⑤

あ や 「おばたぁん、クロのえたっ」
馬やのおばさん 「ああ、ありがとよ。雨がくるかもしれないから、早く帰るんだよ。水も上がるかもしれないからね」
あ や 「はぁい」
あやちゃんは、いそいで帰った。
やっぱり雨がいっぱいふってきた。
こなたりは、雨がふると、すぐ大きな水たまりができるんだ。(*6)
あやちゃんのうちのゆか下にも、水が入ってしまった。
〔注〕*6-このあたりはいわゆるゼロメートル地帯で、水害に悩まされ続けたが、今は排水設備が完備され、その心配はなくなった。
⑥

水がひいたふつか後、
あやちゃんは、いつものように
歌いながら、だがしやさんに向かってた。
また、馬やのおばさんに会った。
馬やのおばさん 「あやちゃん、きょうはおじさん、早いからね」(*7)
これだけで、あやちゃんにわかるのかなー。
-間ー
ゆうがた、馬やのおばさんちの前で待っていると、
おじさんが、馬車をひいて、帰って来た。
馬やのおじさん 「あや、あぶないぞっ」
おじさんがどなった。
あやちゃんは、
「うふふっ」とわらいながら、わきによけた。
おじさんは、馬車おき場に、車を入れ、
馬をつれて、ひきかえして来た。
馬やのおじさん 「クロ、しょうがねえから、
あや乗っけて、ひとまわりすっからな
帰ったら、かいばやるからよ」(*8)
〔注〕*7-小さい声で*8-<かいば=馬や牛用に配合されたえさ>
⑦

おじさんは、ひょいとあやちゃんを抱きあげて、
クロのせに乗せた。
ちいちゃなあやちゃんは、でっかいクロのたてがみを、
しっかりとつかんだ。
おじさんは、左手にたづなを持ち、
大きな右手であやちゃんが落ちないようにつかまえて、
馬やのまわりを、一まわり。
-「パカッ、パカッ、パカッ、・・・」- (*9)
あやちゃんは、クロが大すき、(:10)
おじさんのことも大すき。
おじさんも、あやちゃんのことが大すきなんだねー。
〔注〕*9-馬の足音の擬音*10-明るく
⑧

せんそうがはげしくなった。
このあたりにもばくだんが落とされ、
うちがこわされ、人がなん人も死んだんだ。
ばくだんが落ちたあとは、
大きなあながあいたりもしたねー。
人の食べるものもだんだんなくなっちゃうし、(*11)
だがしやさんには、しいのみとなんきん豆が
少しあるだけだ。
この町にたくさんあった馬やさんの
馬の食べものも、ひどいものになっていった。
〔注*11-<配給制度=食料、日用品などほとんどのものが決められた数量が割り当てられるだけそれも間があき、量も少なく無いこともしばしばだった>
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