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zoom RSS 「雲流るる果てに」−55−

<<   作成日時 : 2010/09/18 08:03   >>

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土屋 浩 [つちや・ひろし] 拓殖大学ー岡山県出身ー神風特別攻撃隊第26金剛隊、昭和20年1月9日、フィリピンのリンガエン湾にて戦死、22歳。搭乗機・零戦。(「雲流るる果てに」262〜264頁)

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   櫻花を贈られて
 
 前略 母上よりのお手紙実に嬉しく拝見致しました。めったに筆を持たれぬお母さんよりの便りだけに、それを読む時の喜び、到底筆舌に尽し得ません。

 父上も相変らずの御多忙で殆んど家に居らるゝ事なき由、益々母上の務め頻繁となり、さぞお疲れの事でせう。

 文二兄さんの入隊による母上のお喜び、さぞ大変なものだったことと思ひます。兄弟四人、皇国に生を享けし感激に応へ奉るべく、大いに奮闘致す日もさほど遠くないことなれば、私はこの日を唯々楽しみに致して居ります。

 同封の櫻花、母上の真心こもるものだけに心より嬉しく思ひました。
 私もこの櫻花の如くありがたいとは、学生時代より常日頃思ってゐただけに、今、家の庭の櫻花も手にし、感慨一入なるものがあります。

 
  佐久良東雄先生の歌にも

   ことしあらばわが大君のおほみため
   人もかくこそ散るべかりけれ


といふのがありますが、何といっても良いのは櫻花です。
 この贈物は、今後、私の良き師良き友となることでありませう。
 城山の櫻も、今年は不順のため少し遅れたらしいですが、こちらは、寒いといっても九州だけに十日程前が満開でありました。今頃あちこちの櫻が潔く散りつゝあります・・・・・・
 (中 略)
 今度家族一堂に会す日は、何時のことでありますやら。兄弟四人美酒酌み交すことも、もはやないと思ひます。しかし私達は常に偉大なる父上、母上の心の中に生きてゐるのですから、今更何の未練もありませんが・・・・・・。千屋の祖父様も御元気とのこと何よりです。母上もどうか体にだけは注意なされて元気に御送日下さい。また暇をみつけて御様子致します。
  
  母上様  浩


追記】当時特攻隊員の生死は櫻の散り際に例えられていた。日本人には古来「無常感」というのがあった。「人間が年をとらず、いつまでも死なない、こんなつまらないことはない。櫻の花も一年中咲いていたら誰も見向きもしない。待ち焦がれてあっという間に散るから価値があるんだ」などという諦感というか無常感が青年たちにもしみついていて、それに当時の軍国教育が拍車をかけ、彼らを死ぬという美学の世界に追いやったのだろうか。

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