
「あしたのやくそく」 吉村勲二・ミヱ文
「このあたりはあの戦争で焼け残ったが、今でもあの時のことを思い出すと、わしは背中が冷たくなるんだよ。
三月十日。そう、あの大空襲があった朝、まだくすぶっていた町の中を死体をまたぎながら、せがれのいる砂町(すなまち)へ向かう途中、焼け落ちた建物の下敷きになって助けを求めるおさない兄妹を見捨ててしまったことをさ・・・」
それは私たちに好きな絵を描く時間も少しでき、変わりゆく町なみを記録しておこうと、住んでいる江東区砂町から中央区月島へ足をのばしたおりのことでした。戦前に建てられた長屋からでてきた老人と話しているうちに、戦争当時のことに話が進み、その長屋の絵は途中のまま、空白に老人の横顔と先のことばが記されていました。

私たちが大好きなこの町に、今も五十数年前の思いをそのままに生きている人たちがいる。この「ことば」が東京大空襲の真実を知り、知らせようというきっかけになりました。
今から六十余年前、日本は中国やアジア諸国に戦争をしかけ、アメリカとも戦争を始めました。その第二次世界大戦の末期1945年3月10日未明、東京の下町、江東・墨田・台東地域一帯はアメリカ軍の無差別爆撃によって人も町も焼きつくされました。それは数行の文や絵で書きつくせぬほどの事実ですが、私たちにできることで少しでも知らせていこうと、紙しばいにしてみました。
「ぜひ、本にして!」の声におされ、このたび遠藤てるよさんにすばらしい絵をつけていただき、「本」という形になりました。力をかしてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
<あとがき> 2002年1月20日

推薦のことば 海老名香代子
炎(ほのお)の中で死んでいった僕たちや私たちのことを忘れないで下さい。東京大空襲を伝えて下さい、の叫びが聞こえるようです。幼い子供たちに戦争の悲惨を伝え、二度とこのようなことがなきよう平和を守ってほしい、切なる願いの本書です。
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