満洲・公主嶺小学校同窓誌 エピソード -7-

「バン」一発の銃声が響き、Tさんの上半身は静かに後ろの壁に倒れた。Tさんの家族と私は車座に座っていたが、みんな「あっ」というような声をあげて床に伏した。ソ連兵の泥まみれの長靴が私の目と鼻の先にあり、Tさんの胸は鮮血に染まっていた。
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    暴徒になす術もなく
          村越 愛策(36回生)
 

 昭和20年8月24日、ソ連兵を先頭に暴動が始まる。私たち日本人は、怒涛のような暴徒になす術もなく、恐怖と怒りの長い一日の後で、放棄された戦場のような瓦礫の中で寝入るのだった。翌25日も再び襲撃を受けた。朝10時ごろ、隣のTさん宅に様子を見るのと避難を勧めようと訪れたのが冒頭の出来事につながった。最早これまで、一刻の猶予もないと遺体をそのままに河北地区へ避難した。
 街の様相も少し落ち着き始めた31日ごろ、被害の様子を見ようと男たちはそれぞれの家へ向かった。略奪の後はすさまじく、私は何にも持たずに引き揚げようと隣家に入ったとき、異様なものに目を奪われた。それは衣服一杯に膨れ上がった肥大漢のようなTさんの遺体であった。この姿には暴徒も手が出せなかったのか、床下に隠した貴重な荷物は守られたのである。悪夢のような出来事であった。

満州・公主嶺 過ぎし40年の記録】第10章「敗戦・引き揚げ」510頁上段
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