
近年流行の「日本人すごい!」本の類でも日本軍礼賛本でもない。逆だ。アジア・太平洋戦争期の日本軍兵士の実態は、従来の想像をはるかにこえて凄惨、悲惨なものだった。本書はそれを、無謀なる戦争という全体像とともに、歴史学の手法で明らかにしている。
絶え間ない激闘、飢え、病、狂気、彷徨から餓死、自殺、海没死・・・。兵士たちの過酷な体験を巡っては、多くの戦争文学が描いてきた。何年か前に出た集英社版戦争文学全集にも『軍隊と人間』『死者たちの語り』『戦争の深淵』等の巻があった。収録された一作、一作に捉えられた兵士の悲劇は、決して特異で孤立したものでなかったことが、本書からわかる。
吉田は、1944年から敗戦までを「絶望的抗戦期」とし、兵士を含む日本人戦没者三百十万人の約九割がこの時期に集中していると推測、年次別の戦没者を公表していない政府を非難している。都合の悪いことは隠す。これは戦中はもとより、今も変わりない政府の現実である。(非英霊)
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