「父の日のささやかな感謝の言葉」『筆洗・東京新聞』

娘がかどわかされるという時代小説を書いていた時の藤沢周平さん。書いているうちにふと心配になってきたらしい。自分の娘を呼びつけ、こんなことを言い聞かせた▼「もしも誰かに誘拐されたら、家にいくらまでだったらお金があるから出せます、と父が言っていると犯人に言いなさい」(『父・藤沢周平が描きかったもの』遠藤展子さん)▼どこの父親も同じか。古今亭志ん生さんの娘さんである美濃部美津子さんが書いている。ある晩、マージャンに誘われ、帰りが遅くなり、門限だった午後10時を一時間も過ぎてしまった▼あわてて家に帰り、玄関を開けると志ん生さんが怖い顔をして立っている。「何時だと思ってんだ。女の子がこんな遅くまで表歩いて何だ。危ないじゃないか」。美津子さん、40歳を過ぎていたそうだ▼父の日である。わが子の「もしも」を案じ、いくつになろうと気をもむ。心配しすぎて疎まれることもあるが、子にはありがたい見方に他なるまい。だから、その子どもたちは父親の心配する姿をほほ笑ましくも大切な記憶として書き残しているのかもしれない▼<細き身を子に寄添いる燕かな>蕪村。コロナもあった。世の中もこれからどうなっていくかも分からぬ。子への心配の種は尽きぬが、父親たちの細き身は父の日のささやかな感謝の言葉だけで、また一年ぐらいは元気になるのである。(2020・6・21)
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