今年のノーベル平和賞は 『東京新聞・筆洗』

「楠公飯」(なんこうめし)とは楠木正成が考案したと伝わる節米法で、戦争中、食料不足を補うため奨励されたと聞く▼玄米を炒り、通常より3倍のお水に一晩漬けた上で炊く。炒った玄米は水分を吸収して、一升分が三升釜いっぱいに炊き上がるそうだ▼戦争中の暮らしを描いたアニメ この世界の片隅に」の中ですずさんが作った楠公飯のお弁当はおいしそうだったが、実際はひどい味だったらしい。演出家の鴨下信一さんによると「どうにも苦く、一度でわが家の食卓から消えた覚えがある」(『誰も「戦後」を覚えていない』)▼厳しい食糧事情の中での知恵だが、わずかにでも玄米があるから初めて使える。それさえ、手に入らない場所には誰かが出向いて届けなければならぬ。今年のノーベル平和賞ははその活動を行ってきた人たちに与えられる。国連の世界食料計画(WFP)である▼飢餓、貧困。世界が今なお抱える問題に対し、最前線で立ち向かうWFPの取り組みは平和賞にふさわしい。とりわけ、コロナ禍によって食料輸送が難しく、飢餓人口の増加が著しい今年である▼WFPの青い旗。小麦とトウモロコシを人の手が強く握りしめている。穀物を飢えに苦しむ人に何としても手渡したい。そんな決意がこめられているのだろう。その活動を支え、協力したい。日本人がおなかすかしていたのも、それほど遠い昔の話ではない。(2020・10・11)

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