牛の我慢牛の我慢強さで一歩づつ前へ 『東京新聞・筆洗』

〈牛はのろのろと歩く/牛は野でも山でも川でも/自分の行きたいところへは/まっすぐに行く>。新年はウシ年。高村光太郎の有名な「牛」を連れてくるとする▼<牛は急ぐ事をしない><ひと足、ひと足、牛は自分の道を味はって行く>この牛は急がないが、着実に前へと進んでいく。<遅れても、先になっても/自分の道を自分で行く>である。〈人をうらやましいとも思はない/牛は自分の孤独をちゃんと知っている>。力強くまわりにも振り回されず、道を行く牛が生きる上でのお手本のように思えてくる。▼光太郎の詩に子どもの時に教わった牛の話を思い出す。牛が十二支に選ばれたいきさつである。競争で決めるというが、足の遅い牛は間に合わないので前の晩から出発することにした。それを牛小屋で見たネズミ。ちゃっかり牛の背に飛び乗った▼牛は夜通し有るき続けた。背中ではネズミがが眠っている。ゴールの直前にネズミは牛から飛び降りて一着入賞。結果。干支(えと)は子(ね)丑(うし)の順となった▼憎らしいネズミだが、光太郎の詩や、牛の優しい顔を思えば、牛は気にせず、ただ自分の歩みに満足したかも知れぬと勝手な想像をしたくなる▼ウイルスとの闘いは今年も続く、日常を取り戻すための歩みは遅くとも焦らず、牛のがまん強さで一歩ずつ前に進むしかあるまい。<見よ/牛の眼は叡智にかがやく>(2021・1・3)

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