小柴昌俊さん死去 『東京新聞・筆洗』

アルキメデスが「原理」を思い付いたのは、風呂だったといわれる。ノーベル物理学賞の益川敏英さんは、受賞につながるひらめきを自宅の風呂で得ている。同じく物理学賞受賞者の小柴昌俊さんも風呂に原点がある。ただ、ひらめきの場ではない▼旧制一高時代、寮の風呂で、湯気のむこうから、小柴さんの進路について語る教師の声を聞いた。「物理学科を受けるはずがない。受かるはずはないから」。そこから猛勉強が始まったと著書やインタビューで繰り返している▼少年期は軍人か音楽家を夢見ていたが、ポリオ(小児マヒ)にかかり、あきらめたという。人一倍の努力が求められる道を歩んできたことが、親分肌で、腹の据わった研究者像をつくっていよう▼カミオカンデでの研究が始まってからのことである。素粒子ニュートリノを世界で初めてとらえていたか、否かの大発見がかかったデータ解析が始まった時には、先約があるからと、温泉に出かけていたそうだ▼九十四歳で小柴さんが亡くなった。教え子梶田隆章さんのノーベル賞受賞が決まった時にも浮かべていたいい笑顔を思い出す。研究には怖さのあるひとだったと梶田さんは語っていた▼実験の現場で磨き抜いてきた「ヤマ勘」を誇っていた。たたき上げを思わせる「物理屋」「実験屋」の呼び名も似合う人が、あとに続く研究者たちに道を残して旅立った。(2020・11・14) 【追記】旧制高校の寮で上田耕一郎元日本共産党副委員長(故人)と同室で、2003年「赤旗」日曜版で上田氏と対談している。

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「四季のめぐりをしみじみと」 『赤旗・潮流』

緑の葉が、黄に色づいてゆく列島。鮮やかに染まる紅葉の便りが各地から届きます。様変わりした日々の対応に追われるなか、四季のめぐりをしみじみと▼折々の季節の移ろいは、暦や気温の変化だけで感じるものではないでしょう。そこには動植物の生育や営みをはじめ、いのちの存在が欠かせません。生のリズムは私たちのくらしに潤いを、文化に彩りをあたえてきました▼山に桜が咲けば種をまき、ホトトギスが鳴けば田を植えてきた先人たち。身近ないきものに目をむけ、時の流れをきめ細かく刻んできました。たとえば、秋の空に響くモズの高鳴き。地域によっては初鳴きから75日たつと初霜が降りると言い伝えられてきました▼しかしいま、地球温暖化や都市化によってありさまは大きく変化しています。気象庁は1953年から記録してきた鳥や虫の季節観測を年内で取りやめると発表しました。これまで対象としてきた23種の動物はすべて廃止し、植物も桜の開花など6種のみに減らすとしています▼昨今は対象を見つけること自体が難しいらしい。東京ではウグイスの初鳴きが20年前から観測できていないといいます。一方で気候変動や生態系の影響をかんがみ、やり方を工夫してでも観測はつづけるべきだとの意見も出ています▼私たちの生活に深く根ざし季節の指標となってきた、いきものたちの前線。鳥のさえずりや虫の音。色めく葉や花。それを失った世界の味気なさは、いかほどか。(2020・11・13)

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「季節の移ろいをどうとらえる」『東京新聞・筆洗』

「初音」といえば、わざわざウグイスと断らずとも、ウグイスがその年の春に初めて鳴く声のことである。「初音」が昔から大切にされたのは人々の春を待つ心からだろう。春を待つようにウグイスの初声を待つ▼永井荷風が季節の音について書いていた。夏の夜の下駄の音。油紙で張った傘に時雨のはらはらと降りかかる響き。荷風にとってそういう懐かしい音は時代とともに消えてしまった。「わたくしは蝉(せみ)と蟋蟀(こをろぎ)の庭に鳴くのを待ちわびるやうになった」。その声だけが昔から変わらず残る季節の音なのだと▼気象庁は植物の開花や鳥の初鳴きなどで季節の移ろいをとらえる「生物季節観測」を大幅に見直し、来年以降、ウグイスの初鳴きなどの観測を取りやめるらしい▼梅の開花やサクラの開花、満開などは残るようだが、動物の二十三種類は全廃となる、ツバメ、シオカラトンボの初見も、荷風が待ちわびたセミやコオロギも皆「落選」した▼気象台や測候所周辺の環境が変わり、対象動物を見つけるのが難しくなったという。セミなどは、今でもいるだろうにと思わぬでもないが、経費など別の理由もあるのかもしれない▼これも時代なのだろうが、かつては身近だった鳥や虫たちが急に遠くへ行ってしまったような気がする。ウグイスではなく同じ鳥でもトラツグミの聞きなしをふと思い出す。<サビシイ、サビシイ>(2020・11・12) 【追記】♪「季節の変わり目をあなたの心で知るなんて」という歌の文句があるが。

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コロナの新規感染者再び増加 『東京新聞・筆洗』

島崎藤村に『三人の訪問者』という不思議な作品がある。最初の訪問者は「冬」である。醜い老婆の顔を藤村は想像していたが、まったく異なる顔をしていた。思わず「お前が『冬』か」と尋ねると「冬」が答える。「一体私を誰だと思うのだ。そんなにお前は私を見損なって居たのか」▼「冬」は庭の樹木を指さす‥満天星(どうだん)の芽、椿の葉の輝き。赤い万両の実。冬が運んでくる自然の美しさを示す。「あの児の紅い頰辺もこの私のこころざしだ」。「冬」に続き「貧」と「老」が訪ねてくる。いずれも嫌われる訪問者たちかもしれないが、それぞれに美やありがたみがある、作品はそう教えている▼立冬も過ぎ、寒くなってきた。藤村に逆らう気はないが、今年の「冬」の顔を想像すれば、その不気味さに身構える。低音や乾燥が好物なのか、このところ新型コロナウイルスの新規感染者が再び増加している▼感染しやすい気候に加え、寒さに窓を開けての換気もおろそかになりやすいか。手洗いも冷たい水ではためらいたくもなるが、それではコロナを喜ばせるだけで、感染対策を意識した心の冬支度を急ぎたい▼米製薬会社が、開発中のワクチンに高い予防効果があったと発表した。うまくいけば、来年上半期にも日本に供給されると聞く▼<先(まず)祝え梅を心の冬籠(ふゆごも)り>芭蕉。ワクチンという梅を心に、この冬を無事に越したい。(2020・11・11)

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大統領が交代したからといって 『赤旗・潮流』

幼いころから吃音(きつおん)に悩んできました。今よりも理解が遅れていた時代。学校ではいじめられ、からかわれながら、彼は鏡にむかい詩の朗読をくり返しました▼政治に興味を抱いたのは高校のとき。ケネディ大統領にあこがれて政界入り。29歳の若さで共和党の有力候補を破って上院議員に初当選。しかし、その直後に交通事故で妻と娘を亡くし、息子たちも重症を負います。就任の宣誓は病室で行われました▼幸せの絶頂から、失意の底へ。その後も息子の病死、政治家としての失敗や挫折。歩みのなかで降りかかったつらい体験や乗り越えてきた困難は、人間同士のつながりに重きをおく誠実さ、逆境に屈しないイメージをつくりあげました▼彼の名は米大統領選で勝利宣言したジョージ・バイデン。憎しみと対立をあおってきたトランプ大統領の4年間から、結束と協調への転換を訴えます。記録的な投票数となった今回の選挙は、米国社会で深まる分断とともに、変化を求める切実な市民の姿をも映し出しました▼民主党の大統領に交代したからといって、劇的に変えられるか。これまでの歴史が証明するように、それはやすやすと期待できるものではないでしょう。めざす国のあり方や国際的に示す具体的な政策もこれからです▼アメリカ史上、最初の女性副大統領となるカマラ・ハリスさんは人びとに希望を込めて呼びかけました。「民主主義は保証されているものではない。より良い未来を築く力をもっているのは、私たち人民なのです」。(2020・11・10) 【追記】このコラムを読み通してひどく感心している。そのタッ…

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[「嗚呼 満蒙開拓団」と永井瑞江さん

これは「おばあちゃんの満州っ子日記」の著者・永井瑞江さん(長野県在住)との間でかわされた手紙の一節です。映画・「満蒙開拓団」(羽田澄子監督)に関わることについて悲憤の思いがつづられています。(2009年10月記 永井至正)

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不可思議な米大統領選挙 『赤旗・潮流』

得票数が有権者の2割に満たない自民党が、衆院の3ぶんの2を占めるー。日本の小選挙区制は民意をゆがめる不合理な制度ですが、大激戦となっている米大統領選の制度は、輪をかけて不可思議なものです▼全米の州ごとに「選挙人」の人数を設定。1票でも多い候補が選挙人を「総取り」し、選挙人の数で過半数を制した方が勝ちとなります。この方式は1787年の合衆国憲法制定時に導入されたもの。当時は情報網も交通網も未発達なため、地域の代表を選んで大統領を決めるためです▼投票前からメディアが世論調査や出口調査を繰り返し、投票終了から数時間で「当確」が打たれ、その結果があっという間に全世界に伝わる現代に、200年以上前の制度がそのまま残っている。本当に不思議です▼民主党・バイデン氏が優位ですが、トランプ陣営は票の最集計を要求し、法廷闘争も辞さないとしています▼わずかな票数で命運が左右されかねないのは米国だけではありません。経済や外交・安全保障を米国に握られている日本政府も固唾をのんで見守っています▼大統領選の結果がどうあれ、米中退率は激化し、日本の軍事分担拡大は既定路線です。4年前、真っ先にトランプ氏を詣でたことを誇った安倍晋三善首相のような屈従外交はやめ、対立の先兵になるのではなく、北東アジアの平和構築を米国に低減する。そろそろ、日本もそんな国にならなければ。(2020・11・8) 【追記】憲法改正は日本よりアメリカが先にやらなければ! なにせ、18世紀に作られた代物(しろもの)だそうだ。

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今年の流行語候補発表 『東京新聞・筆洗』

映画『E・T』の異邦人は古い傘など物置にある何でもない道具を組み合わせて、中間と交信する装置をこしらえた。村上春樹さんが、この装置づくりを言葉と創作の関係に重ね合わせている▼<優れた小説というのはきっとああいう風にしてできるんでしょうね>と「職業としての小説家」に書いている。日常的な平易な言葉も<そこにマジックがあれば・・・驚くばかりに洗練された装置>になると▼デンマークで、コロナ禍を乗り越えようという人々の思いが、「マジック」の役割を果たしたようだ。欧州メディアによると、ほとんど使われていなかったある言葉がコロナ流行下で広がって、力を発揮したという▼聞き取りに自信がない耳には「サムフンシン」と聞こえる。「社会」「心」の日常的なニ語を組み合わせた言葉だそうだ。翻訳が難しいらしいが、「共同体の心」のような意味という。その「心」に基づいた「信じられないほどの善意」が医療支援や地域の助け合いなどの形になったそうだ。同国の「今年の言葉」の有力候補らしい▼日本の新語・流行語大賞は先日候補が発表された。「アベノマスク」をはじめコロナ関連が多い。分かりやすくて人々の行動に大きな影響を与えた「3蜜」もある▼力を感じる言葉があった半面、北欧の国のように人の心を動かすような言葉が、生まれてきてほしいとも思う。)2020・11・7)

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ゴッド・ブレス・アメリカ『赤旗・潮流』

米国には第2の国家があります。「ゴッド・ブレス・アメリカ」。勇ましさを奮い立たせる国家「星条旗」とは趣が異なり、国を愛する思い切々と訴えます▼第1次世界大戦が集結した日のラジオ放送で人気となり、第2次大戦中に全米にひろまりました。いまでは学校や軍隊、スポーツや大統領就任式でも歌われ、9・11同時テロの際には団結する心を呼び起こすかのように▼その米国社会で、いま分断が深まっています。人種差別やコロナウイルスの拡大をめぐり、ふきだす怒りや不安。大統領選のなかで対立し、ぶつかりあう支持者たち。治安は悪化し、デモや集会には武装した集団の姿がめだつようになりました▼拍車をかけているのが、敵対心や憎しみをあおるトランプ大統領の態度です。実際、共和、民主両党の支持者の間には亀裂がひろがり、それは地域や家族にも影響を及ぼしています。避難の応酬や二大政党のあり方に失望する若者も▼大接戦の大統領選はトランプ陣営が法廷闘争を構えるなど、いまだ先行きは不透明です。郵便投票の集計停止を求める大統領に抗議するデモも起きています。そんななか、両支持者のがののしりあう場で「ゴッド・ブレス・アメリカ」が歌われ、和解したという報道も▼感染拡大や気候変動、貧困をはじめ地球規模の課題に迫られるなか、世界や人々に分断や格差をもちこんでいるものとは何か、そこに目を向け、連隊して打ち破って行くことが希望ある未来へとつながるはずです。(2020・11・6)

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「学術会議」任命拒否 いつかきた道『赤旗・潮流』

97歳の元会員が声を上げました。「今回の政府による会員の任命拒否は、日本学術会議の根幹にかかわることで、絶対に認めることはできない」▼気象学者の増田善信さん。戦争中、海軍の基地で南方に出撃する操縦士らに予報を伝えるのが任務でした。戦後は気象庁に入り、70年代から学術会議の会員を務めました。すべてが軍事につながっていった戦前を知るからこそ、その反省にたった原点が脅かされていることに危機感を覚えています▼戦後守ってきた独立性。学術会議は政府の方針と相反する声明や決議を出してきたと、増田さんは証言します。「それを、のどの奥に刺さったトゲのような感じで政府をもっていたのではないか」(NHK「クローズアップ現代+」▼任命を拒否された東大の加藤陽子教授は6人が外された背景にふれて語っています。「学術学会会員に対して、政府側の意向に従順でない人々をあらかじめ切っておく事態が進行したと思う▼みずから招いた混乱にたいし、自覚も反省もない。志位委員長が菅首相をただしました。もちだす理由はことごとく矛盾し、これまでの法解釈もも内閣の一存で改ざんする。そう詰められてもまともに答弁しない見苦しい態度を▼学問の現場では萎縮や自主規制の空気が広がっています。外された学者や指導を受ける学生への中傷も。このままでは、いつか来た道へー。山際寿一・前会長はこう警鐘を鳴らします。「それは着実に全体主義国家への段階を上って行くことになる」(2020・11・5)

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新自由主義時代のおわりを 『赤旗・潮流』

『首を切れない社員なんて雇えないですよ普通』コロナ禍の経済再生をテーマにしたテレビ番組で竹中平蔵氏がこんな発言をして批判を呼んでいます▼正規雇用を攻撃し、生産性を高めるためには労働市場をもっと流動化しなければならないー。「構造改革」の名でリストラや使い捨て労働を増大させ、日本の雇用や経済を壊してきた責任などどこ吹く風です。いま雇い止めに苦しむ非正規の人たちにも目を向けません▼そんな人物を政府の「成長戦略会議」の委員に抜てきするのですから、菅政権が描く国のあり方も推して知るべし。すべてを弱肉強食の市場原理に委ね、経済効率のみを優先し、社会保障を縮小してきた新自由主義の流れ。コロナの下、その弊害は分野を問わず吹き出しています▼人間が当然もつべき権利を定めた憲法が公布された文化の日。それが生きるコロナ後の社会を訴えた集会が国会前でありました。生存権さえ脅かされる困窮、拡大する格差や差別の実態が次々と▼命の尊厳と人権が守られる社会をどうつくっていくか。同じ課題は世界でも。新自由主義とグローバル化に支配された次代の終わりを告げ、分断をのりこえ、人類の普遍的な価値に基づく連帯と協力を提唱する若い哲学者も現れています▼目に見えないウイルスがひろまる不安と恐怖のなか、自分は何をなすべきか。ひとつの答えを指し示すような声が国会に響きました。「差別や不平等のない平和な社会をめざしたい。そのために団結してたたかおう」(2020・11・4) 【追記】まだ蠢(うごめ)いていたのか、竹中平蔵という人。

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大阪市廃止 再び否決 『赤旗・潮流』

大阪の地をたどると都市としての性格が貫かれているといいます。古代・難波宮(なにわのみや)をはじめ、中世の寺内(じない)町や城下町、天下の台所と呼ばれた近世、そして国際的な大都市に発展した現代と▼めっちゃうれしいー。古くから商業や流通の要になってきた伝統都市の存続が決まりました。ふたたび打ち破った「維新」の廃止論。5年前につづく否決は、彼らがもちだした二重行政の解消や住民サービスの充実が、いかにまやかしだったかを改めて示しました▼市民の間には喜びとともに複雑な胸中もあります。この住民投票自体が、自分たちがよって立つ地盤をより良くしたいといういう願いに対立と分断をもちこんだからです。大坂市の権限や財源を手に入れるために掲げた「都」構想。それは住民を二重に裏切る偽りの看板でした▼それを旗印に10年も叫びつつげ、巨額の税金を投入し、府・市政と住民を混迷させてきた。「維新」の責任は大きい。”一丁目一番地”としてきた政策を失ったいま、その存在意義も問われます。自党の議席のために態度を翻し、大阪市を売った公明党の罪も重い▼東京一極集中が進むなか、大阪をふくめ各地の都市は疲弊しています。地域社会が横並びしていくことで特性を失い、喪失感を抱く人も。しかもコロナ禍で社会は縮み、人びとはくらしに不安や悩みを抱えています▼積み上げてきた歴史や伝統に住民が愛着や誇りをもち、あすへの希望にどうつなげるか。それをつくりあげていくのは、対立ではなく共同の力です。(2020・11・3) 【追記】「維新の会」の衰退と「公明党」の陰…

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[「げん「原子力」も選択肢とは驚きです。『赤旗・潮流』

2050年までに温質効果ガスの排出を実質ゼロにすると所信表明で宣言した菅首相ですが、国会答弁からは原発や石炭に固執する姿勢が見えてきます。エネルギー分野の取り組みで、「再生可能エネルギーのみならず原子力や石炭を含めあらゆる選択肢を追求する」と▼「あらゆる選択肢」に「石炭を含め」るとは、火力発電の中で温室効果ガスを最も多く排出するということです。世界第5位の温室効果ガス排出国の責任をどう考えているのか。期限を決めて石炭火力廃止をめざす欧州などの動きと正反対です▼「原子力」も選択肢とは驚きです。福島原発事故から9年以上たった今も、ふるさとに帰れない人々が多く、帰還困難区域が広く及んでいる現実を無視するものです▼3年前、日本学術会議が「事故から何をくみ取るか」と提言を出しています。「将来においても過酷事故の可能性を想定しなければならない」、その対策費用の「額は事前に予測可能なものとはならない」、それは原発が「未完の技術」だからと指摘▼選択肢になり得ない理由はこれだけではありません。「使用済み核燃料や再処理によって生成される高レベル放射線廃棄物の安全な管理や処分という難問(提言)も。原発を動かせばこの廃棄物は増えるばかりです▼気候変動政策を強化するため行動する若者でつくるフライデー・フォー・フュチャー(未来のための金曜日)ジャパンが訴えています。「将来世代を裏切らないような政策をとって」

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大岡昇平の"野火” 渾身の遺言 『赤旗・潮流』

塚本晋也監督・主演の自主映画「野火」を見て衝撃を受けたのは、戦争法案が強行採決された2015年の夏でした▼太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島で、結核のため部隊を追われた1等兵がジャングルをさまよい続けます。飢えと孤独の極限状態での狂気、発作的な殺人、人肉食の欲望。戦場のおぞましい実態に震えるほどの恐怖を覚え、兵士を英雄として描く作品群がいかに欺瞞に満ちたものかを思い知りました▼戦後75年の今、この映画の原作『野火』の著者でもある作家・大岡昇平の生涯と作品世界をたどる展覧会が、県立神奈川近代文学館で開催されています▼青春の日々に小林秀雄や中原中也らと交友を深め文学を志し、スタンダール研究家として知られた大岡は、1944年、35歳で臨時招集を受けフィリピン・ミンドロ島に出征。翌年、米軍捕虜となりレイテ島の収容所で敗戦を迎えました▼戦後、従軍体験を基に書いた『俘虜記』『野火』『レイテ戦記』では、絶望的な攻撃と防御で肉体が吹き飛び、あるいは敗走の飢餓地獄の中で野垂れ死んでいく兵士一人ひとりの姿を克明に描出し、日本帝国の戦争とは何だったのかを告発しています▼「レイテ島の戦闘の歴史は、健忘症の日米国民に、他人の土地で儲けようとする時、どういう目に遇うかを示している。(略)どんな害をその土地に及ぼすものであるかも示している。その害が結局自分の身に撥ね返って来ることを示している」。作家の渾身の遺言として胸に刻みたい。(2020・11・1) 【追記】「大岡昇平の名言」

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読書は心の森林浴をモットーに 『赤旗。・潮流』

たたかう本屋です。地域とつながりを絶やさないため、理不尽な出版流通の仕組みにあらがうため、まちの文化を守るために▼大坂市中央区・谷町6丁目の駅近くにある隆祥館書店。店主はシンクロ水泳の日本代表選手だった二村知子さん。小さな店内には日本や世界の今を映し出す骨太の作品が並びます。しかも売上た数がすごい。500冊を売って全国1位を記録した本も▼新刊を読み込み、来店する一人ひとりの顔や好みを覚え。その人に合った作品をすすめる。読書は心の森林浴をモットーに、つくってきた信頼関係があります▼もう一つの信念は差別を扇動するような本は置かないこと。そこには大手書店ばかりに優先配本しながら、ヘイト本を押しつけてくる取次店への怒りも込められています。先代の父、義明さんは、「本は毒にも薬にもなる。右から左へ流すものではない」と。創業70年余の苦闘の歩みはジャーナリストの木村元彦さんが『13坪の本屋の奇跡』にまとめています▼作家と読者の集いも頻繁にに開いてきました。先月は「都」構想の問題点を考えるトークイベントを。大坂の伝統を継いでいくためにも「都構想には反対です」と知子さんはきっぱり▼読書週間が始まりましたコロナ禍で読書量は増えているにもかかわらず、各地のまちの本屋はつぎつぎと姿を消しています。この20年でほぼ半減したとの調べもあり、隆祥館書店のたたかいは続きます。きょうも思いを込めて。「手にとる本を未来につなげていきたい」(2020・10・31)

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憲法に明記された学問の自由 『赤旗・潮流』

「学匪」(がくひ)という中国から伝わった蔑称があります。学問や知識で民心を惑わし、社会に悪影響をおよぼす学者や学生を指します。その屈辱の言葉を国の議会で投げつけられた学者がいました▼戦前に憲法学の最高峰といわれた美濃部達吉です。国家を法人とみなし天皇は法人たる国家の最高機関という学説が国体を揺るがす危険思想だとして弾圧されました。ときの政府は全著作を発禁とし、公職からも追放。不敬罪での告発、右翼による襲撃へと進んでいきました▼この排撃の嵐のなかで言論や学問の自由も奪われ、立憲主義は停止し、歯止めを失った権力の暴走が日本を破局的な戦争に引きずり込んでいった。『「天皇機関説」事件』の著者、山崎雅弘さんは今に重なる警鐘を鳴らしています▼戦後、憲法に明記された学問の自由の保障。それが、こうした歴史の反省のうえに刻まれたものだという認識はあるのか・・・。学術会議の人事に介入した菅首相に対志位委員長が国会でただしました▼理由も明らかにしないまま任命を拒む侮辱。これまでの政府答弁さえすべて覆す横暴。これは全国民にとっての大問題で、強肩をもって異論を排斥する政治に未来はないと▼美濃部は当時、国民一丸となって国防の強化にまい進するよう求めた軍部の小冊子にこう反論していました。「国民を奴隷的な服従生活の中に拘束して、いかにしてこのような急速な文化の発達を実現することができようか。個人的な自由こそ、実に創造の父であり、文化の母である。(2020・10・30) 【追記】「滝川事件」を主題にした黒澤明監督の映画・”わが青…

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テレビ小説「エール」と軍歌 『赤旗・潮流』

戦時中を覆った軍歌から、平和を掲げる戦後のヒット曲へ。NHKのテレビ小説「エール」が時代と音楽の転換を描きだしています▼主人公の古山祐一は、作曲家・古関裕而がモデル。時代の流れに呼応するかのように、「戦地に行く人々を励ます」といって求められるがまま、次々に軍歌作っていきます。しかし、戦場で兵士が無残な死を遂げるのを目の当たりにして、自分を責めることに・・・▼戦後、実際の古関が反省したかどうかは定かでありません。むしろ、自作の軍歌を「快心の作」と愛着を持って回想しています。自衛隊歌にも取りかかりました▼ドラマはフィクションですから、人物像をそのままなぞる必要はないでしょう。しかし、軍歌には消してはならない重要な意味が含まれています。「エール」にも描かた「人々を戦争に駆り立てた」という事實です▼美空ひばりのヒット曲などを手がけた作詞家の故石本美由紀が語っていました。「軍歌には依頼した側の意思が全面的に込められている」と。NHKも古関にニュース歌謡、国民歌謡の名で作曲を依頼して戦意をあおりました・「音楽は軍需品」とされた時代。放送も軍国主義の宣伝機関です▼朝ドラの戦後編ではテレビから明るい歌声が流れます。戦災孤児を見つめたラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌や、戦災受難者の再起を願う「長崎の鐘」。これらの歌に耳を傾けると、軍歌が闊歩する時代が再び訪れることがないようにと、そんな思いがいっそう強くなります。(2020・10・29) 【追記】戦争の語り部・随談家の小沢昭一さん(故人)が「戦争の話をするとき私…

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「胸打たれる夜間中学の映画」『赤旗・潮流』

「学ぶことは生き延びること」。その言葉は、動詞の現在進行形で英訳されました▼夜間中学のドキュメンタリー映画『こんばんはⅡ」の英語字幕版が完成。新型コロナで中断していた、公立夜間中学の設置を求めるキャラバンを後押しします。優しい気持ちに包まれ、無性に学びたくなる。夜間中学の豊かさに胸打たれる映画です▼字幕版完成後、初の一般上映会は来月14日横浜で。会場のあーすぷらざには、4カ国語で対応する外国人相談コーナーが設置されています。学びから暮らしに至るまで、多数の資料に出会える情報フォーラムも。2006年の窓口開設以来のスタッフ、加藤佳代さんは言います。「ちょっとした情報のかけらを使って、一歩踏み出してほしい」。字幕版上映スタートの地にふさわしい空間です▼「子どもが学ぶ意欲を持てない・・・」。英語字幕版を担当した関美江子さんは、日本語指導に悩んでいました。5年前、夜間中学の学びに目覚めて以来、安心の場の必要性を痛感します。その人が抱えるもの、願うことを丸ごと知る努力を惜しみません▼人のつながりでたどり着くことが多い夜間中学。その存在を知らされないことで学びを保障されない人たちがいます。この国で人間らしく生きていきたい。失われた尊厳を取り戻したい。そんな願いに背を向ける流れも生まれています。時の政府は物言わぬ人々を求めているのでしょうか▼黙っていては思うつぼ。私たちは学び、つながり、そしておしゃべりをあきらめません。(2020・10・28)  

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「平和」の対義語は「戦争」だけではない

 「平和」という言葉の意味は熟知しているつもりでいたが、あるとき必要に迫られて辞書(新明解国語辞典 第5版)を引いて「ハッ!」とさせられた。「戦争や災害などが、不安を感じないで生活できる状態」と書かれていた。つまり、「平和の対義語(反対語)はドンパチと銃火を交える戦争だけでなく「災害」(台風、洪水、地震、大火、伝染病)が肩を並べて明記されているのだ。  年初来の新型コロナウイルスの猛威は、世界中の平和が損なわれているといってもいいのではないか。とりわけ、この日本は地震、台風などの「災害」に頻繁に見舞われ、災害列島化している・  この国の平和を保つためには、政府が”おためごかし”に出動させる自衛隊(隊員は体を張って奮闘しているが)の一部を災害救助隊として改組。常日頃の諸準備とその対応に充てる必要はないのか。かつて、私の住む江東区の高齢者集会などで呼びかけられた「平和なくして 福祉なし」という合言葉を、今こそ強く噛みしめたいと思う。 【追記】「豊かな自然こそ『平和の象徴』」と題して、ブログ「満州っ子 平和をうたう」(2014年3月)に私が書いた一文が由来。

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唯一の被爆国でありながら 『赤旗・潮流』

「今度こそ、母さんを助けるぞ」・そう叫んで目が覚めたときの言いようのない悔しさ。先月91歳で亡くなった岩佐幹三さんは生前、同じ夢をくり返し見たと語っていました▼16歳だったあの日、広島の爆心地から1・2㌔の自宅で被爆。崩れ落ちた家の下敷きになって原爆の業火に生きながら焼かれる母を救えなかった「罪」を生涯背負いました。そして、死者にたいする誓と決意を胸に核兵器廃絶を命の限り訴えつづけました▼3年前、国連で核兵器禁止条約が採択されたとき、岩佐さんは喜んでいました。「母や妹をはじめ、原爆で亡くなっていった人の死がむだではなかったということを明らかにしてくれた」。発効が決まったことを知ったら、どんなに・・・▼被爆75年、核兵器の全面禁止にむけた歴史的な全身の歩み。歓喜と祝福が相次ぐなか、日本政府への失望や怒りがひろがっています。唯一の戦争被爆国でありながら、いまだに核の傘に便り禁止条約に背をむける 。被爆者や運動を否定するような姿勢に終始しています▼菅首相就任後の初の所信表明演説。「国民のために働く内閣として新しい時代をつくる」といいながら、そのための柱も画期をなす施策もない。対峙する市民と野党の共闘の土台となる政策には、新しい日本を切り開く道が鮮やかに▼そこには核兵器禁止条約を直ちに批准することも。いつか、核なき世界が実現したときのことを岩佐さんはつづっています。「母さんたちと一緒にお空に上ってお星さまになりたいね」(2020・10・27) 【追記】これでも、日本政府は「批准しない」という。日本人であ…

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