「神よりほかに知る者がない」 『赤旗・潮流』

罪に問われる死の宣告を受けた古代の哲学者は、こう言い残しました。「去るべき時が来た。私は死ぬために、諸君は生きつづけるために。しかし、どちらがよりよき運命に出あうか。それは神よりほかに知る者がない」▼プラトンが配した『ソクラテスの弁明』の最後の一節は「神のみぞ知る・・・」。コロナ対策を担う西村担当相の発言です▼いまの政府の無策ぶりを象徴する無責任さ。第3波が襲い全国で感染がひろがっているのに、呼びかけるのは会食の仕方ばかり。やれマスクをしてだの、静かに食べてだの。そんなことしか発信できないのか▼ようやく「Go To」事業の見直しを言いだしましたが、行楽シーズンの連休で人出は各地に。これまで散々あおっておきながら、はしごを外された不信感が募る人も多い▼ここにきて中高年層への感染が増え、医療現場は緊迫しています。病床や人員、検査体制をどう確保するか。そうした支援に尽力するわけでもなければ、感染を抑え込む戦略もみえない。国民のために何をなすべきか、根本となる考えがないからでしょう▼知らないことを自覚するー。ソクラテスは「無知の知」を己の哲学の出発点としました。それは、ただ生きるのではなく、より良く生きるための指針でもあったといいます。そんな人類の知恵や教訓を説いたところで、恥を知らない政権いは響かないか。(2020・11・22) 【注】ソクラテス

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その頃はもうペーパーレス時代かも

 東京新聞の「発言欄」に「卒様式に『海ゆかば』を歌った」と題して投稿したら掲載され、謝礼として「図書券(1000円)」が送られてきた。よくよく見ると、有効期限は2032年12月31日と書いてある。小生、1932年生まれだから、最終年に本を購入すると100歳になっている。「ウーン」とうなっていたら、横合いから息子が「100までがんばれ、ということだよ! でもそのころはもうペーパーレス時代かもな」と口をはさんで笑った。

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コロナ禍の中で子どもたちは 『赤旗・潮流』

コロナ禍の中で子どもたちはどんな状態に置かれ、どんな支援が求められているのか・・・。埼玉県で生活困窮世帯の子どもへの支援をしている「彩の国子ども・若者支援ネットワーク」の白鳥勲さんが、さいたま教育文化研究所発行の雑誌に経験を書いています▼同ネットワークは県内の貧困世帯の小・中・高校生に対し、無料の学習教室の運営、家庭訪問、食事の提供などで支援をしています。3月からの休校時は学習教室も開けなくなりました。そこで97人の常駐スタッフが手分けをし、支援対象の1500世帯に週1回、電話をしました▼給食がなくなって1日1食しか食べていない。学校から出された課題ができず教えてくれるおとなもいない。昼夜逆転や家庭内暴力、引きこもりも。そんな深刻な実態がわかりました▼スタッフが感染対策をしっかりとって訪問し、弁当を届けたり、一緒に課題をやったりしました。家に閉じこもっていた子どもとは散歩やドッジボールをしました▼保護者や子どもからは大いに喜ばれました。白鳥さんは「明らかになったことはこのような災難があったときに犠牲になるのは社会的弱者だということ」とつづっています▼再開した学校では、遅れた分を取り戻そうと授業がとても早く進み、ついていけない子が多くなっていると白鳥さんはいいます。学習教室に来る子どもたちに丁寧に教えると同時に、「わからないときに聞く力をつけたい」と取り組んでいます。弱者に寄り添った貴重な活動です。(2020・11・20)

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「ノーベル平和賞受賞の誤謬」 『東京新聞・筆洗』

 古代ユダヤの学校では、一年生を「賢者」と読んだそうだ。二年目には「哲学者」、最終学年の三年生で「学生」と呼ばれる▼賢さをたたえられても本当に尊敬されるには、その先が大切で、謙虚に学び続けることを知らなければならない。呼び名にはそんな戒めが込められていたようだ。マービン・トケィヤー著『ユダヤ処世術』にある▼エチオピアのアビー首相は、就任わずか一年あまりで2019年のノーベル平和賞受賞に選ばれた。「新星」「希望」などと呼ばれた人である。どうやら、国際社会から尊敬され続けることには成功していないようだ。受賞から一年のいま、「失望」も聞かれる▼41歳で首相になると、隣国エリトリアとの長かった紛争を集結に導いている。ノーベル平和賞授賞式の誇らしそうな笑顔は印象的だった。だが平和は維持することも難しかった。今度は連邦政府と北部ティグレ州政府の軍事衝突が激化する。双方が避難し合っている。アビー氏は空爆に踏み切った。民間人に犠牲者も出ているようで、先行きが心配である▼アビー氏に対しての苦言に違いない。平和賞を贈ることを決めたノーベル賞委員会が数日前、平和的手段での解決を求める異例の声明を出した▼欧州メディアからは、平和賞は「早すぎた」の声もあがっている。ノーベル賞級の努力が、いま一度求められているだろう。(2020・11・20)

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「福島の今を伝えます」 東京新聞・片山夏子記者

 東京新聞福島特別支局の支局長に、特報部の片山夏子記者=写真=が八月一日付で就任しました。片山新支局長は「事故から十年。福島で生活できることはうれしいです。住んでみないと分からないことがたくさんあると感じています。所信に返って取材したいです」と抱負を語っています。  片山記者は、現場の最前線で収束作業に取り組む原発作業員の取材を続け、2011年八月から124回にわたって「福島作業員日誌」を掲載、直接取材が難しい作業員に粘り強く接触、連載では新型コロナウイルス感染拡大の影響で防護服が不足する現状、最前線で働く現場の過酷さ、離れて暮らす家族への思いなどを赤裸々に伝え、読者の強い支持を得ています。

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少人数学級は長年の悲願 『赤旗・潮流』

決して、ぜいたくを言っているわけじゃない。今まで間違っていたことを、正しくしてほしいだけ・・・▼少人数学級は長年の悲願、切望でした。教職員や保護者が先頭に立ち、毎年たくさんの署名を寄せました。その粘り強いとりくみが世論となって、国に実現を求める意見書を採択する議会が一気に広がっています。政治が、国が大きく動いています▼少人数学級化を求める教育研究者の有志は署名が18万人になったと発表。できたてほやほやのパンフレットを手に「さらに署名を」と呼びかけました。「学力だけじゃない。子どもたちにもっと元気になってもらいたい」「子どもの詰め込みと学習内容の詰め込みをやめよう」と思いを口々に。いま実現しないでどうするのか・・・。気迫の訴えです▼「不退転の決意でのぞむ。勇気をもらっった」。日本共産党の畑野君枝衆院議員にたいし、萩生田光一文科相がこう答えたのは13日のことでした。ちょうど同じ日。「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」が会見。正規教員で少人数学級を実現するための試算を発表しました▼同会事務局長の 山崎洋介さんは言います。「必要最小限の『正人数』学級を保障してほしい、とお願いしているだけ」なのだと。国は長年にわたり、子どもたちが豊かに育つためのお金を出し惜しみしてきました。「教育は自己責任」と思わせてきた。その罪はとても重い▼のびのびと生き、学び合う学校へ。当たり前となる。そんな国を、子どもたちに。(2020・11・19)

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平和とはそうやってつくられる 『東京新聞・筆洗』

 脚本家の向田邦子さんが「父の詫び状」の中で子どものころに食べた「おハつ」を書き出している。ビスケット、動物ビスケット。鈴カステラ。ミルク・キャラメル。グリコ、かつぶし飴、芋せんべい、棒チョコ、板チョコ・・・。計三十四品。そんなに書き連ねることもなかろうにお菓子の思い出が止まらなくなったのだろう▼キャラメルは、「グリコ」派で「おまけ」に心をひかれたそうだが、森永びいきの父親にはしかられた。「飴なら飴、玩具なら玩具を買え。飴も食べたい、玩具もほしいというのはさもし了見だ」▼向田さんでなくとも幼きころに味わったお菓子にまつわる記憶というのはいつまでも消えぬものだろう、味やかおりが思い出を深くさせるのか▼お菓子をめぐる思い出話をアジアの人とも共有できる日が来るのかもしれぬと想像する。日本や中国、韓国、インドネシアなどの十五カ国が協定を結んだRCEP(地域的な包括的経済連携)である。東アジアでの貿易自由化が進む▼日本のチョコレートやお菓子の関税を引き下げられそうだ。アジアでの日本のお菓子の人気は高く、RCEPでますます広まっていくだろう▼言葉や育った環境は違っても、同じお菓子を食べ、笑顔になった思い出を持つ人がいる、そう思えば、お互いの心の距離もぐっと縮まっていくようである。平和とはそうやってつくられる。(2020・11・18)

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「国=政府」ではないのだ 保坂和志

 政権や体制に批判的な文化・芸術・研究に補助金を出す必要はない、という理屈がいつ頃からか当たり前になっている。「国を批判する者に補助金を出す必要はない」というこの理屈は間違いだ。こういうことを言う人たちは、<国=政府>だと思っている。<国>は政府のものでは全然ない。<国>は国民のもので、国民にはいろいろな人がいるものなのだ、みんながみんな、政府のすることを良いと思っているわけがない。これまで国がしてきたこと(つまり歴史)に全面的に賛成の人ばかりでないのは言うまでもない。  国の現状や歴史を批判する人も国民なんだから国から補助金や研究費をもらうことは少しもおかしくない。繰り返すが「国から」というのは「政府から」ではない。政府は国のいくつもある機関の一つでしかない。学問・芸術活動している人はそのお金を政府からもらっているわけではないのだ。その人たちは、国民の自由や幸福のため、この国が間違った方向に進まないためにやっているんだから、国からお金をもらうのは正当な報酬だ。  そもそも批判することのどこがいけないのか。いけなくない。批判と否定は同じではない。最近みんな、批判することと誹謗中傷を混同していないか? 批判は間違いや誤解を指摘して糺(ただ)すことだ。批判を受け止めるプロセスを経て、考え方やシステムは良くなってゆく。批判は例えれば、科学の実験やスポーツのトレーニングのようなものだ。トレーニングなんて失敗の繰り返しだ。トレーニングで失敗するたびに自分が否定されたと思っていたら技術は向上しない。 …

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女性が輝く社会づくりを 『赤旗・潮流』

アメリカ史上初めての女性副大統領となるカマラ・ハリスさん。外電は「世界で最も高いガラスの天井の一つを破った」と伝えました▼最近米国で もう一つ天井が破られました。長い歴史をもつプロ野球大リーグで女性のゼネラルマネージャー(GM)が誕生。マイアミ・マーリンズのキム・アングさんです。北米の四大プロスポーツをみても球団運営のトップであるGMの職に女性が就くのは初めてだといいます▼30年前から球界にかかわってきた彼女は、複数の球団でトレードや契約交渉の担当などを歴任。豊富な経験実績から、いつGMになってもおかしくないと評されていました ▼「私がこの世界に入ったとき、女性が大リーグの球団を率いるなど。ありえないと思われていた」と語るアングさん。大リーグの最高責任者は「すべてのプロスポーツ界で新たな歴史をつくり、野球やソフトボールを愛する多くの女性や少女にとても重要な例になる」▼さまざまな分野で女性の登用が進むことへの期待が高まる米国。一方、日本はどうか。例えば今秋の叙勲。制度自体に問題はあるものの女性が過去最高の割合に。ところが。わずか1割です▼女性が輝く社会づくりを掲げながらおとしめる政権党をはじめ、いまだ進出を阻む壁は厚い。「私は自分の目標のために根気強くがんばってきた」とアングさん。「私が最後ではない」と呼びかけるハリスさん。一つ一つ、偏見や差別の天井を打ち破る。それは、次の世代の夢や希望につながります。(2020・11・17)

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「全面戦争になってしまう」 『赤旗・潮流』

「全面戦争になってしまう」。自衛隊の元幹部はそう語ります。「ミサイル阻止」を口実に政権内で保有に向け検討が進む敵基地攻撃能力についてです▼ミサイル発射拠点を叩くというが、移動式発射機の発見は困難だ。発射前に阻止するなら攻撃対象は軍中枢になる。そこにはレーダーや対空兵器も備えられている。叩くのであれば全面戦争の覚悟が必要だと▼自民党国防議運の提言は、攻撃対象に移動式発射機だけでなく、「固定施設・機能も検討すべき」と主張。巡航ミサイルの活用も求めています。菅政権のもとで危険な動きが進んでいます▼「米国の対中軍事戦略を理解する重要な手がかり」。海上自衛隊幹部学校の研究誌「海幹校戦略研究」(7月号)は、そういって米シンクタンク発表の「海洋圧力戦略」(昨年5月)を紹介しています▼同誌によると同戦略は「中国本土への攻撃が考慮されているのが特徴」。戦略を読むと、日本は「中国に近い最前線の国」であり、戦略が構想する戦力の一部として「自衛隊が米軍とともに作戦する」ことに期待を示しています。米中戦争で敵基地攻撃でも米軍を支える。そんなシナリオが透けて見えます▼検討を進める理由に政府は「安全保障環境の厳しさ」を強調します。しかし本気で北東アジアに平和をつくりだすつもりがあるのか。3日の国連総会第1委員会では核兵器禁止条約への署名・批准を呼び掛けた決議が118カ国の賛成で採択されました。日本は反対。向かうべき方向が逆です。(2020・11・16)

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研究者が残したメッセージ 『赤旗・潮流』

アインシュタインよりもモーツァルトの方が天才だ。なぜなら、誰かが相対性理論と同じ心理にたどりつくことは可能である。ところがあのすばらしい曲は彼以外につくれないから▼わたしたちが捕まえたニュートリノも、自然界が投げかけてくれたそれを、たまたま受けとめるめぐりあわせだっただけ。訃報が伝えられたノーベル賞物理学者の小柴昌俊さんは、科学の発展を基礎研究の積み重ねの結果としてとらえていました▼人間がいままで分からなかったことを知る喜び。飽くなき挑戦と探求の地道な作業は、超新星爆発によって生じる素粒子ニュートリノの史上初の観測とともに、天文学に新たな分野を切り開きました▼宇宙の生成に迫りながら、後進の支援や研究環境の改善を国に求める姿も。本紙のインタビューでも日本の貧しい教育予算を情けないと憂え、「国のさらなる繁栄のための投資」と考えて若い人の教育にしっかり使うべきだと提言していました▼旧制一高の寮で同部屋だった共産党の上田耕一郎さんとの対談ではこんなことも。われわれの研究なんて、100年たっても役に立つかどうか。ただ人類の知的財産を増やすという意味しかないが、それをやっていくことがその国の文化の高さを示す▼自然は思いもつかない「事実」をもっている。それを見極めるためには、本気になって目を開かないといけない。いつか達成したいと思う「卵」をたくさんもって。知の発展に尽くした研究者が残したメッセージです。(2020・11・15)

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小柴昌俊さん死去 『東京新聞・筆洗』

アルキメデスが「原理」を思い付いたのは、風呂だったといわれる。ノーベル物理学賞の益川敏英さんは、受賞につながるひらめきを自宅の風呂で得ている。同じく物理学賞受賞者の小柴昌俊さんも風呂に原点がある。ただ、ひらめきの場ではない▼旧制一高時代、寮の風呂で、湯気のむこうから、小柴さんの進路について語る教師の声を聞いた。「物理学科を受けるはずがない。受かるはずはないから」。そこから猛勉強が始まったと著書やインタビューで繰り返している▼少年期は軍人か音楽家を夢見ていたが、ポリオ(小児マヒ)にかかり、あきらめたという。人一倍の努力が求められる道を歩んできたことが、親分肌で、腹の据わった研究者像をつくっていよう▼カミオカンデでの研究が始まってからのことである。素粒子ニュートリノを世界で初めてとらえていたか、否かの大発見がかかったデータ解析が始まった時には、先約があるからと、温泉に出かけていたそうだ▼九十四歳で小柴さんが亡くなった。教え子梶田隆章さんのノーベル賞受賞が決まった時にも浮かべていたいい笑顔を思い出す。研究には怖さのあるひとだったと梶田さんは語っていた▼実験の現場で磨き抜いてきた「ヤマ勘」を誇っていた。たたき上げを思わせる「物理屋」「実験屋」の呼び名も似合う人が、あとに続く研究者たちに道を残して旅立った。(2020・11・14) 【追記】旧制高校の寮で上田耕一郎元日本共産党副委員長(故人)と同室で、2003年「赤旗」日曜版で上田氏と対談している。

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「四季のめぐりをしみじみと」 『赤旗・潮流』

緑の葉が、黄に色づいてゆく列島。鮮やかに染まる紅葉の便りが各地から届きます。様変わりした日々の対応に追われるなか、四季のめぐりをしみじみと▼折々の季節の移ろいは、暦や気温の変化だけで感じるものではないでしょう。そこには動植物の生育や営みをはじめ、いのちの存在が欠かせません。生のリズムは私たちのくらしに潤いを、文化に彩りをあたえてきました▼山に桜が咲けば種をまき、ホトトギスが鳴けば田を植えてきた先人たち。身近ないきものに目をむけ、時の流れをきめ細かく刻んできました。たとえば、秋の空に響くモズの高鳴き。地域によっては初鳴きから75日たつと初霜が降りると言い伝えられてきました▼しかしいま、地球温暖化や都市化によってありさまは大きく変化しています。気象庁は1953年から記録してきた鳥や虫の季節観測を年内で取りやめると発表しました。これまで対象としてきた23種の動物はすべて廃止し、植物も桜の開花など6種のみに減らすとしています▼昨今は対象を見つけること自体が難しいらしい。東京ではウグイスの初鳴きが20年前から観測できていないといいます。一方で気候変動や生態系の影響をかんがみ、やり方を工夫してでも観測はつづけるべきだとの意見も出ています▼私たちの生活に深く根ざし季節の指標となってきた、いきものたちの前線。鳥のさえずりや虫の音。色めく葉や花。それを失った世界の味気なさは、いかほどか。(2020・11・13)

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「季節の移ろいをどうとらえる」『東京新聞・筆洗』

「初音」といえば、わざわざウグイスと断らずとも、ウグイスがその年の春に初めて鳴く声のことである。「初音」が昔から大切にされたのは人々の春を待つ心からだろう。春を待つようにウグイスの初声を待つ▼永井荷風が季節の音について書いていた。夏の夜の下駄の音。油紙で張った傘に時雨のはらはらと降りかかる響き。荷風にとってそういう懐かしい音は時代とともに消えてしまった。「わたくしは蝉(せみ)と蟋蟀(こをろぎ)の庭に鳴くのを待ちわびるやうになった」。その声だけが昔から変わらず残る季節の音なのだと▼気象庁は植物の開花や鳥の初鳴きなどで季節の移ろいをとらえる「生物季節観測」を大幅に見直し、来年以降、ウグイスの初鳴きなどの観測を取りやめるらしい▼梅の開花やサクラの開花、満開などは残るようだが、動物の二十三種類は全廃となる、ツバメ、シオカラトンボの初見も、荷風が待ちわびたセミやコオロギも皆「落選」した▼気象台や測候所周辺の環境が変わり、対象動物を見つけるのが難しくなったという。セミなどは、今でもいるだろうにと思わぬでもないが、経費など別の理由もあるのかもしれない▼これも時代なのだろうが、かつては身近だった鳥や虫たちが急に遠くへ行ってしまったような気がする。ウグイスではなく同じ鳥でもトラツグミの聞きなしをふと思い出す。<サビシイ、サビシイ>(2020・11・12) 【追記】♪「季節の変わり目をあなたの心で知るなんて」という歌の文句があるが。

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コロナの新規感染者再び増加 『東京新聞・筆洗』

島崎藤村に『三人の訪問者』という不思議な作品がある。最初の訪問者は「冬」である。醜い老婆の顔を藤村は想像していたが、まったく異なる顔をしていた。思わず「お前が『冬』か」と尋ねると「冬」が答える。「一体私を誰だと思うのだ。そんなにお前は私を見損なって居たのか」▼「冬」は庭の樹木を指さす‥満天星(どうだん)の芽、椿の葉の輝き。赤い万両の実。冬が運んでくる自然の美しさを示す。「あの児の紅い頰辺もこの私のこころざしだ」。「冬」に続き「貧」と「老」が訪ねてくる。いずれも嫌われる訪問者たちかもしれないが、それぞれに美やありがたみがある、作品はそう教えている▼立冬も過ぎ、寒くなってきた。藤村に逆らう気はないが、今年の「冬」の顔を想像すれば、その不気味さに身構える。低音や乾燥が好物なのか、このところ新型コロナウイルスの新規感染者が再び増加している▼感染しやすい気候に加え、寒さに窓を開けての換気もおろそかになりやすいか。手洗いも冷たい水ではためらいたくもなるが、それではコロナを喜ばせるだけで、感染対策を意識した心の冬支度を急ぎたい▼米製薬会社が、開発中のワクチンに高い予防効果があったと発表した。うまくいけば、来年上半期にも日本に供給されると聞く▼<先(まず)祝え梅を心の冬籠(ふゆごも)り>芭蕉。ワクチンという梅を心に、この冬を無事に越したい。(2020・11・11)

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大統領が交代したからといって 『赤旗・潮流』

幼いころから吃音(きつおん)に悩んできました。今よりも理解が遅れていた時代。学校ではいじめられ、からかわれながら、彼は鏡にむかい詩の朗読をくり返しました▼政治に興味を抱いたのは高校のとき。ケネディ大統領にあこがれて政界入り。29歳の若さで共和党の有力候補を破って上院議員に初当選。しかし、その直後に交通事故で妻と娘を亡くし、息子たちも重症を負います。就任の宣誓は病室で行われました▼幸せの絶頂から、失意の底へ。その後も息子の病死、政治家としての失敗や挫折。歩みのなかで降りかかったつらい体験や乗り越えてきた困難は、人間同士のつながりに重きをおく誠実さ、逆境に屈しないイメージをつくりあげました▼彼の名は米大統領選で勝利宣言したジョージ・バイデン。憎しみと対立をあおってきたトランプ大統領の4年間から、結束と協調への転換を訴えます。記録的な投票数となった今回の選挙は、米国社会で深まる分断とともに、変化を求める切実な市民の姿をも映し出しました▼民主党の大統領に交代したからといって、劇的に変えられるか。これまでの歴史が証明するように、それはやすやすと期待できるものではないでしょう。めざす国のあり方や国際的に示す具体的な政策もこれからです▼アメリカ史上、最初の女性副大統領となるカマラ・ハリスさんは人びとに希望を込めて呼びかけました。「民主主義は保証されているものではない。より良い未来を築く力をもっているのは、私たち人民なのです」。(2020・11・10) 【追記】このコラムを読み通してひどく感心している。そのタッ…

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[「嗚呼 満蒙開拓団」と永井瑞江さん

これは「おばあちゃんの満州っ子日記」の著者・永井瑞江さん(長野県在住)との間でかわされた手紙の一節です。映画・「満蒙開拓団」(羽田澄子監督)に関わることについて悲憤の思いがつづられています。(2009年10月記 永井至正)

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不可思議な米大統領選挙 『赤旗・潮流』

得票数が有権者の2割に満たない自民党が、衆院の3ぶんの2を占めるー。日本の小選挙区制は民意をゆがめる不合理な制度ですが、大激戦となっている米大統領選の制度は、輪をかけて不可思議なものです▼全米の州ごとに「選挙人」の人数を設定。1票でも多い候補が選挙人を「総取り」し、選挙人の数で過半数を制した方が勝ちとなります。この方式は1787年の合衆国憲法制定時に導入されたもの。当時は情報網も交通網も未発達なため、地域の代表を選んで大統領を決めるためです▼投票前からメディアが世論調査や出口調査を繰り返し、投票終了から数時間で「当確」が打たれ、その結果があっという間に全世界に伝わる現代に、200年以上前の制度がそのまま残っている。本当に不思議です▼民主党・バイデン氏が優位ですが、トランプ陣営は票の最集計を要求し、法廷闘争も辞さないとしています▼わずかな票数で命運が左右されかねないのは米国だけではありません。経済や外交・安全保障を米国に握られている日本政府も固唾をのんで見守っています▼大統領選の結果がどうあれ、米中退率は激化し、日本の軍事分担拡大は既定路線です。4年前、真っ先にトランプ氏を詣でたことを誇った安倍晋三善首相のような屈従外交はやめ、対立の先兵になるのではなく、北東アジアの平和構築を米国に低減する。そろそろ、日本もそんな国にならなければ。(2020・11・8) 【追記】憲法改正は日本よりアメリカが先にやらなければ! なにせ、18世紀に作られた代物(しろもの)だそうだ。

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今年の流行語候補発表 『東京新聞・筆洗』

映画『E・T』の異邦人は古い傘など物置にある何でもない道具を組み合わせて、中間と交信する装置をこしらえた。村上春樹さんが、この装置づくりを言葉と創作の関係に重ね合わせている▼<優れた小説というのはきっとああいう風にしてできるんでしょうね>と「職業としての小説家」に書いている。日常的な平易な言葉も<そこにマジックがあれば・・・驚くばかりに洗練された装置>になると▼デンマークで、コロナ禍を乗り越えようという人々の思いが、「マジック」の役割を果たしたようだ。欧州メディアによると、ほとんど使われていなかったある言葉がコロナ流行下で広がって、力を発揮したという▼聞き取りに自信がない耳には「サムフンシン」と聞こえる。「社会」「心」の日常的なニ語を組み合わせた言葉だそうだ。翻訳が難しいらしいが、「共同体の心」のような意味という。その「心」に基づいた「信じられないほどの善意」が医療支援や地域の助け合いなどの形になったそうだ。同国の「今年の言葉」の有力候補らしい▼日本の新語・流行語大賞は先日候補が発表された。「アベノマスク」をはじめコロナ関連が多い。分かりやすくて人々の行動に大きな影響を与えた「3蜜」もある▼力を感じる言葉があった半面、北欧の国のように人の心を動かすような言葉が、生まれてきてほしいとも思う。)2020・11・7)

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ゴッド・ブレス・アメリカ『赤旗・潮流』

米国には第2の国家があります。「ゴッド・ブレス・アメリカ」。勇ましさを奮い立たせる国家「星条旗」とは趣が異なり、国を愛する思い切々と訴えます▼第1次世界大戦が集結した日のラジオ放送で人気となり、第2次大戦中に全米にひろまりました。いまでは学校や軍隊、スポーツや大統領就任式でも歌われ、9・11同時テロの際には団結する心を呼び起こすかのように▼その米国社会で、いま分断が深まっています。人種差別やコロナウイルスの拡大をめぐり、ふきだす怒りや不安。大統領選のなかで対立し、ぶつかりあう支持者たち。治安は悪化し、デモや集会には武装した集団の姿がめだつようになりました▼拍車をかけているのが、敵対心や憎しみをあおるトランプ大統領の態度です。実際、共和、民主両党の支持者の間には亀裂がひろがり、それは地域や家族にも影響を及ぼしています。避難の応酬や二大政党のあり方に失望する若者も▼大接戦の大統領選はトランプ陣営が法廷闘争を構えるなど、いまだ先行きは不透明です。郵便投票の集計停止を求める大統領に抗議するデモも起きています。そんななか、両支持者のがののしりあう場で「ゴッド・ブレス・アメリカ」が歌われ、和解したという報道も▼感染拡大や気候変動、貧困をはじめ地球規模の課題に迫られるなか、世界や人々に分断や格差をもちこんでいるものとは何か、そこに目を向け、連隊して打ち破って行くことが希望ある未来へとつながるはずです。(2020・11・6)

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