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zoom RSS 詩集 終わりからはじまる歌@

<<   作成日時 : 2010/10/09 10:19   >>

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詩集「終わりからはじまる歌」は詩人・永井和子が1978年に発刊した第五詩集である。それまでの『ロ号33番』『沖縄詩集』『約束』『続沖縄詩集』に続けた。日曜詩集の会の増岡敏和氏は「跋」のなかで「『終わりからはじまる』とは、到達したところからまた歩きはじめるという意味・・・」といっている。その時彼女が何をうたったか今度初めて知った。

画像
   T 女の季節 
    彼岸過ぎに

この朝
子どもを生むことをきめました
彼岸過ぎたばかりなのに
東京は朝からつめたい雨
十一月の寒さです。
プラタナスがすこし色づいて
秋がいつのまにか近づいていました

六価クロム 排気ガス マイナス〇メートル地帯の江東で
生まれる子どもは
太陽を追いかけ 黄色い風にさからって育つでしょう
母親のお腹のなかから
全ての子どもが完全な条件のなかで誕生する権利を叫び
入院助産の適用拡大を要求して
薄い福祉の扉を叩くでしょう

出生届けに名まえを刻んだその日から
〇歳保育を求め
健康で豊かな保育を求めて
保母さんたちと手をつなぎ
乳幼児医療の無料化と
婦人の労働条件改善のために
母親の背中でデモに参加するでしょう

母親のいない夜のさびしさを
ちいさなにぎりこぶしにして
高校増説の 教育の民主化の 学童保育の
その他たくさんの署名にそのこぶしを添えるでしょう

かさあげされて坂になってしまった橋を
毎日いくつも渡って
わたしのあるく道のはるかな未来に
子どものあるく道のはるかな未来に
その未来に確信をもって
この朝 新しい生命を
生むことに決めました

つめたい雨に秋が深まる
彼岸過ぎの町でした


  さよなら 史(ふみ)
 
 その1

生まれたのは 1976年8月のある日
死んだのは 同じ年の10月15日
男の子にちがいないときめこんで
「よしふみ」という名まえを用意していたのだけれど
あまりみじかすぎた命だから
史(ふみ)とつけた

80日余りのみじかい命を生きた 史
ようやく形づくられた大脳で
なにを考えただろう
ようやくみわけがつくていどの耳と目で
なにを見ただろう
黄色い雨に汚染される江東の町は
新しい命を手放しで歓迎してはくれない
また一人ぶんアパートがせまくなり
また一人ぶん保育所が不足し
また一人ぶん進学競争がきびしくなる


史は
傷だらけになり
愛することにあえぎ
たった一度の青春を抱きしめて生き
わたしたちの隊列に加わってくれるだろうか
名まえどおり一つの人生を
歴史的な年を
生きるはずだった 史
その人生の全てを残していってしまった 史

ようやく育ちはじめた大脳で
おまえが考え 拒否したものは
なんだったのか
ようやくみわけがつくていどの耳と目で
おまえがききわけ
生きることを拒否したものは
なんだつたのか
今ここにいきているわたいたちに対して

 
 その2

おまえがいってしまって
一ヵ月が過ぎた
わたしの胸にぽっかりあいた穴は
日ごと大きくなるばかりだ
子どもがまるきりいないわけではないし
流産なんてごくありふれたことだし
生活のために産むのをやめる人だってある時だから
わたしの体を気づかってくれる人はいても
おまえのために泣いてくれる人はいない
この年で改めて子育てなんて大変だし
暮らしだってらくじゃないんだし
慰めてくれる人はいても
わたしの胸にあいた穴の深さに
気づいてくれる人はいない

史よ
おまえをあきらめようとしたひとつき
いく晩もねむれず苦しかったひとつき
そして
おまえを産もうときめた あの朝の
つめたい雨が
今になってわたしのからだにしみる
日ごとに凍りながらしみわたっていく

おまえを抱いて
あえぎながらあるいたひとつき
あのひとつきで
わたしの全てが終わってしまったようなむなしさが
わたしのからだにしみわたっていく

わたしの体を気づかって
せっせと励ましや花束や果物を
はこんでくれる仲間たちに
笑顔でこたえないわけにはいあないから
史よ
おまえのために涙をながす場所が
わたしには まだない
まだ みつからないー


【注】2010年「史」(ふみ)は35歳になっている。

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