「待たせる身が辛いかね」『東京新聞・筆洗』

作家の太宰治と壇一雄が熱海で飲み明かしたが、その代金が払えない。太宰が東京に引き返してカネを借りてくるという。壇は熱海に残ることになる。事実上の人質である▼その太宰が戻ってこない。数日後、東京に帰った壇は井伏鱒二の家で将棋を指していた太宰を見つける。「あんまりじゃないか」。太宰は「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」と言ったそうだ。壇の『小説太宰治』にある。太宰の「走れメロス」につながる逸話という▼待たせる身の「申し訳ない」という辛さも分かるが、辛さでいえば、やはり待つ身の方が大きかろう。たいへんな辛さを抱えて、少なくとも約一万五千人が待っている。新型コロナウイルスへの感染判明後、入院先や宿泊療養先が決まらず、「調整中」となっている人が緊急事態宣言下の十一都府県で増えているという▼病床不足に加えて、懸命に調整に当たる保健所の能力も限界に近いのだろう。円滑な振り分けができなくなってきた▼自宅で調整を待つ方の不安は大きい。家族に感染させないか。万が一、急変したら・・・。コロナの症状に加え、心の負担も重くなる▼自宅で亡くなる人も増えていると聞く。「調整中」を「調整済み」に変える態勢を国のリーダーシップで一刻も早く整えたい。待たせているのは行政である。「待たせる身が辛いかね」。そんな反論は一切通らぬ。(2021・1・26)
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